昔話への想い その2 ー 山田さんの昔話 高崎市本町3丁目 ー初めて勤めた小さな事務所は、古くからの商店が建ち並ぶ、今は静かな町並みにあった。高崎市本町3丁目通りをへだてたお向かいのご主人は、山田泰一さんという博識な方で、よく私にこの町内の昔の話をしてくれた。 ー空襲を知らせたツバメの話、お正月の松小屋の話、町内の山車の話、子ども等の遊びなどなど… 事務所の下が山車ばやしの練習場になっていたので、私も篠笛を習い始めて、8月の高崎祭りでは山車にも乗せてもらい、いつしかすっかり3丁目の住人になった。「今は赤い提灯に電球を入れているが、昔は普通の提灯にろうそくを灯していたんだ。自分の町内の山車が出ない年は、くやしくてよその山車の提灯をパチンコでねらったもんだ。ちょうど...14Jun2018昔のこと、昔のお話
昔話への想い その1 ー 父の昔話 三春町蛇沢 ー「ーその下駄の音は、カラン・コロン・カラン・コロン って、石段を登ってきてね、うちの玄関の前でぴたりと止まったんだ。家族は囲炉裏端でじっと耳をかたむけていた。ところが…」 幼い頃、父が話してくれる昔話が大好きだった。 いたずら好きの五人兄弟の末っ子、人望のある穏やかな父と、神主の娘であった母の元で伸び伸びと少年時代を過ごした父。そのふるさとは、今は三春ダムの下に沈んでいる。 「…だれも入ってこないんだ。石段を上がったところにあるのはうちだけだし、もっと上れば神社があるだけだ。夜のそんな時間に神社に上る人もない。不思議に思っていると、家の仏壇の鐘がチーンと鳴って…」 父の語る話は、おとぎ話でも作...11Jun2018昔のこと、昔のお話
昔話への想い その3 ー 典ちゃんの昔話 郡山市西田町 ー言っておくけれど、西田町は昔話の宝庫である。別にそんなに鼻息を荒くしなくてもいいのだけれど、しかしだれもそのことに気づいていない、もしくはなんとも思っていないようなのだ。郡山市には、湖南町という豊かな昔話をもつ地域があり、湖南の人達はそれらを大切に語り伝えて、子供たちに伝え、子供たちもまた誇りを持って自分の故郷の昔話を語り継いでいる。けれど、西田町もまたたくさんの昔話を持つ地域であるのに、それらが語られるのを聞いたこともなければ、子供たちも触れる機会がほとんどない。なんとももったいないというか、今伝えなければ絶えてしまうだろうと思うのだ。ところで、宮司の母、今年83歳になる典ちゃんは、実に西田町の生き字引みたいな人である。小さい時分...11Jun2018昔のこと、昔のお話