はじまり―ペグマタイトの御守―


「いいとこに連れてくよ」


祖父の法事の後、叔父がそう言って連れてきてくれたのが、ここ、鹿島大神宮を訪れた最初だった。

車に乗り込み、叔父の後をついて行くと、やがて田んぼの中にこんもりとした鎮守の森が見えた。森は晩秋の明るい色彩に被われて鮮やかだった。

石段を上っていくと、社殿の脇に大きな白い石が、樹に寄りかかるように鎮座していた。


11月23日勤労感謝の日。


手水舎の所で叔父は腰をかがめて何かを拾うと、

「ほら、ここにはこんなのがたくさんあるんだよ」

と手のひらに乗るほどの白い石を私に手渡した。そして

「ここが、ほれ、今度お見合いするうちの神社だよ」

と言った。


びっくりしたけれど、石段を登って参拝し、ペグマタイト岩脈を見て、また手水舎の所に戻ってくる頃には、

(断られなかったら、ここにお嫁に来よう)

と決めていた。

母が私の隣で、

「雅子さんも、これまでずっとサラリーマンで忙しくしてきたんだから、これからはこういう所で暮らすのもいいんじゃないの?」

と言った。


帰りの高速道を高崎に向かって運転しながら、私はずっとあの鎮守の森の事を考えていた。

自分の心の一部をそこに置いてきてしまったような気がしていた。


お見合いの返事を待つ間、私は毎日あの森のことを考えていた。 

(今頃は日も落ちて真っ暗だろうか) 

(今頃は朝の光が木々にまぶしく射しているだろうか)

 (今日はどんより雲って憂鬱に沈んでいるだろうか) 


事務所の机にしまったペグマタイトをなでながら、私はご縁がありますようにと祈っていた。

私の一部は今もあの神社にあるような気がしていて、これが気のせいでなければいいがなあ、と思っていた。


あの時叔父が拾ってくれたペグマタイトの小石は今でも大事にしている。

私の縁結びの御守。


鎮守の森にようこそ

神社や鎮守の森でおこった出来事、社務をとりながら考えたことなどをつづりました。  禰宜 雅子

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