杉の古木からなる郷社の森は、いつでも深い青に包まれています。
この森に、花の咲く木を植えたいと思ったことがありました。例えば、日当たりのいい森の周りには、山ツツジ、参道沿いには紫陽花を、そして杉の間々に和シャクナゲを植えたら、四季折々に美しく、訪れた人の目を楽しませてくれるのではないかと考えたのです。
ですが、宮司に言うと、
「郷社のお山はあのままでいいんだよ」
なおもしつこく言い続けると、
「参道沿いには何も植えないよ。お山を通って池の方へ下りてくる脇道ならいいけど」
さあ、なにを植えよう。私はわくわくして、毎日郷社の森を散策しました。
ところが、通ううちに私もいつしか、この森はこのままがいいと思うようになってしまったのです。
折々に、木々の間に咲く錨草、虎の尾、擬宝珠、ドクダミなど、なぜか郷社に咲く花には白い花が多いのです。それがペグマタイトの白に妙にしっくりして、この森を落ち着いた、すがすがしいものにしているような気がするのです。
通えば通うほど、この鎮守の森のファンになってしまった私は、かくして大々的な植樹計画を放棄したわけです。
とはいえ、昨年は森の一番外側の縁に山帽子を二本植えましたし、この春は家の裏にある白山吹のねっぱえ(実生の苗)を掘って、どこかに植えてこようかなあなどと考えております。
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