―待て 登れぬ山などない 儂の言葉を信じるのだ 聞けよ―
2年前、私の心の中には繰り返しこの曲が流れていました。劇団四季のミュージカル『ライオンキング』の中で歌われる「おまえの中に生きている」の一節
1月に突然宮司が倒れ、翌日はもう私が神社の一切をやるしかありませんでした。
たとえどんなに経験が浅く、狩衣も満足に着られない有様だったとしても。
春祭シーズンは容赦なく近づいてきます。
病院と学校と神社を夢中で往復する毎日の、車中でこの曲が流れていました。
―登れぬ山などない―
心の中で自分に言い聞かせます。
(登れぬ山などない)
それでもやっぱり怖じ気づいて、不安な気持ちを口にするたび、その頃まだ言葉もよく出てこなかった宮司が病床からいつも励ましてくれました。
「大丈夫」 「できるよ」 「大丈夫だよ」
そんな宮司がいっぺんだけ
「無理。他の人に頼んだ方がいい」
と言ったのが、船引町芦沢にある鞍掛山の山津見神社春祭でした。
麓の鳥居を入ると、四駆の軽自動車を一速にしてゆっくり上るしかないほどの石ころだらけの急な山道。
うっかりしゃべると舌をかみそうなぐらい。
拝殿での祭礼の後、こんどは徒歩で御本社へ。
苔むした岩が組み合わさった上を飛び移るようにして登っていくと、最後は巨大な岩の上にある社殿が姿を現します。
軽装で後ろをついて行きながら、お願いした神主さんが狩衣に草履といった出で立ちで、ぶら下がっている古い鎖ををたぐりよせるようにして岩を登っていくのを見上げて、私は
(登れない山は、あった…)
と嘆息しました。
けれど、半年後の10月、私は御本社に登りました。
いろいろ考えた末、履き物は白の地下足袋に、袴は先のつぼまったものに替えて。
ご先祖様がこの地に勧請し、代々心を込めてお祭をしてきた山津見神社のお祭を、私も氏子さん達と一緒にこれからも大切に引き継いでいきたいと思います。
テーマソングはやはりこれからも
「登れぬ山などない」
この春は、抜けるような青空の下でのご奉仕でした。
拝殿前の山桜は満開、ウグイスやオオルリのさえずりが冴え渡っていました。
二週間後のお湯立て神事もがんばるぞ!
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