鎮守の森改造計画杉の古木からなる郷社の森は、いつでも深い青に包まれています。この森に、花の咲く木を植えたいと思ったことがありました。例えば、日当たりのいい森の周りには、山ツツジ、参道沿いには紫陽花を、そして杉の間々に和シャクナゲを植えたら、四季折々に美しく、訪れた人の目を楽しませてくれるのではないかと考えたのです。 ですが、宮司に言うと、 「郷社のお山はあのままでいいんだよ」 なおもしつこく言い続けると、 「参道沿いには何も植えないよ。お山を通って池の方へ下りてくる脇道ならいいけど」 さあ、なにを植えよう。私はわくわくして、毎日郷社の森を散策しました。ところが、通ううちに私もいつしか、この森はこのままがいい...28Apr2018日々のできごと
神楽面と狐いつもしまわれている神楽面を社務所に下ろした夜のこと。お神楽の練習も終わり、ひとり事務所で仕事をしていたのだが… ふと気配を感じて、廊下に出た。するとガラス戸の向こうに茶色の影。 「あっ、サツキ?」(うちのイヌの名前) それはサッと身を翻し、一瞬私の方を振り返りながら階段を飛び降りて闇に消えた。 (サツキ、より少し小さくて、ほっそりしていたよね…色も少し明るかったし…狐かな?) なんとなく大広間に置かれている神楽面のことを思い出す。 (会いに来たのかな…古なじみの神楽面に)ーそこでこんなお話ー27Apr2018日々のできごと
登れぬ山などない ―待て 登れぬ山などない 儂の言葉を信じるのだ 聞けよ―2年前、私の心の中には繰り返しこの曲が流れていました。劇団四季のミュージカル『ライオンキング』の中で歌われる「おまえの中に生きている」の一節 1月に突然宮司が倒れ、翌日はもう私が神社の一切をやるしかありませんでした。たとえどんなに経験が浅く、狩衣も満足に着られない有様だったとしても。春祭シーズンは容赦なく近づいてきます。病院と学校と神社を夢中で往復する毎日の、車中でこの曲が流れていました。 ―登れぬ山などない― 心の中で自分に言い聞かせます。 (登れぬ山などない) それでもやっぱり怖じ気づいて、不安な...23Apr2018日々のできごと
雅楽事始め 「お茶でもいかがですか?」 この一言が私に雅楽の扉を開いた。 実家の駐車場の地鎮祭を終えた産土神社の神主さんに、私が掛けた言葉。 父を交えての世間話は、神社や神道に関する話題から、あの時人気のあった映画「もののけ姫」と古神道との関連まで楽しく続いたが、その中で神主さんが所属する群馬県雅楽愛好会についての話が出たのだ。聞けば数年前より神職以外の人にもその門戸を開いたと言う。それも年会費5000円という安さで。 私は身を乗り出した。タダで笛を教えてもらえる機会は逃さない、というポリシーにもよるが、なによりその時の私にとって、雅楽はまさにタイムリーな話題だったのだ。ちょっと前に私は新田次...21Apr2018雅楽のことなど
参道の杉ー木の気ー鹿島大神宮の参道には樹齢390年の杉が立ち並んでいる。 お嫁に来たばかりの頃、杉のごつごつした幹に両手を当ててみたことがある。そのままずうっと上の方を見上げると、しんと静かな気持ちが流れ込んできた。しばらくしてそっと離れると、なんだか両手がほかほかしている。歩き出したら、あれ?酔っ払ったみたいにいい気持ちになっていて、なんだかおかしかった。 朝、この木々の間を参拝に向かう時はいつも 両手を広げたくなる。清々しい気を身体いっぱいに吸い込みたくなる。「ここが好きだなあ」 と心から思うひととき。21Apr2018境内にあるもののお話
だんな様は平安時代 ―御日供祭ー私のだんな様は、毎朝平安時代の人になる。結婚した頃、それがなんだかとても面白かった。朝起きると、だんな様は白衣と袴の上に狩衣(平安時代の貴族の装束)を着て、神社へと向かう。そして太鼓をたたくとお祓いをし、神様にお供えをして祝詞をとなえる。真冬の寒い頃でも神社の扉を開け放ったまま、地域の人々の安寧を祈る。その後ろ姿を見ているのが私は好きだった。(私のだんな様は福島県でいちばんえらい神主さんだ)そう思っていた。木犀の金の香もかぐわし宮の朝 祭り告げる太鼓の響きよ宮守る人の心すがし朝祭 郷の幸え祈る言霊田を渡る風に乗り まだ明けぬ故郷の空に溶けこの日を言祝ぐ21Apr2018日々のできごと
はじめての春祭次に私が鹿島大神宮を訪れたのは翌年、まだ結婚前の4月15日。鹿島大神宮の春祭の日だった。車で走る西田町はどこもかしこも桜が咲き乱れていて夢のように美しく、なんだかすごく歓迎されているみたいだった。神社に着くと、ちょうどお神楽が始まるところ。境内はお菓子撒きを待ち構える子供たちでにぎやかだった。総代さんや氏子さん達につぎつぎに紹介され、「おめでとう」「お嫁に来てくれてありがとう」「おめでとう」と口々に祝ってもらった。総代長さんの握手がとても力強くてあたかかったのを今でも覚えている。わたしの大切な、大好きな鹿島大神宮のお祭の、これが事始め。20Apr2018日々のできごと
はじまり―ペグマタイトの御守―「いいとこに連れてくよ」祖父の法事の後、叔父がそう言って連れてきてくれたのが、ここ、鹿島大神宮を訪れた最初だった。車に乗り込み、叔父の後をついて行くと、やがて田んぼの中にこんもりとした鎮守の森が見えた。森は晩秋の明るい色彩に被われて鮮やかだった。石段を上っていくと、社殿の脇に大きな白い石が、樹に寄りかかるように鎮座していた。11月23日勤労感謝の日。手水舎の所で叔父は腰をかがめて何かを拾うと、「ほら、ここにはこんなのがたくさんあるんだよ」と手のひらに乗るほどの白い石を私に手渡した。そして「ここが、ほれ、今度お見合いするうちの神社だよ」と言った。びっくりしたけれど、石段を登って参拝し、ペグマタイト岩脈を見て、また手水舎の所に戻ってくる...20Apr2018日々のできごと